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公開:2026年10月28日 更新:2026年10月28日 創業

城辺で、時間をかけて育てる。砂川丈見とぬくmoriの仕事

今回のOWNERSは、株式会社ぬくmoriの代表取締役、砂川丈見氏です。

城辺にあるcafe nuisを拠点に、カフェ運営だけでなく、石鹸や化粧水などの商品開発、地域素材の活用、周辺環境の手入れまで、その活動は一つの業種には収まりません。

ただ、砂川氏の話を聞いていると、事業を次々に増やしているというよりも、地域の中で『これ、もったいないな』『ここ、もう少し良くできるな』と感じたものを一つずつ拾い上げ、時間をかけて形にしているように見えます。

海沿いでも市街地でもない城辺で、なぜ店を続けるのか。なぜ島の素材を商品にするのか。なぜ店の外の歩道にまで花を植えるのか。そこには、『派手じゃなくても、続ければ場所は育つ』という砂川氏らしい考え方がありました。

【企業情報】

株式会社ぬくmori

宮古島・城辺を拠点に、cafe nuisの運営、地域素材を活用した商品開発・販売などを展開。カフェという「場所」と、石鹸・化粧水などの「ものづくり」の両面から、地域の魅力を形にしている。

観光地の中に残る、「昔からの宮古島」を感じられる場所

――cafe nuisを、どんな場所にしたいと考えていますか?

宮古島は観光地として大きく変わりました。でも、この辺りにはまだ昔の雰囲気や原風景が残っているんです。

すごくデザインされた観光施設を作りたいというより、『宮古島って、こういう感じだったよね』と感じてもらえる場所にしたい。観光の方にも来てもらいたいですけど、地域のおじいちゃん、おばあちゃんが気軽に来て、コーヒーやケーキを楽しめる場所でもありたいと思っています。

実際、観光客だけではなく地元のお客様も結構来てくれます。昔の喫茶店みたいに、地域の人が自然に集まる場所になってきたのは嬉しいですね。

――市街地や海沿いではなく、城辺で続けることには、どんな意味がありますか?

正直、最初は集客できるのか分からなかったです。この辺には、こういう店がほとんどなかったので。市街地へ出ればもっと分かりやすい商売の仕方もあったと思います。

でも、この場所は祖父の頃から地域の人たちが使ってきた場所でもあります。農業資材を置いたり、みんなで協力して使っていたような倉庫があって、そこにあった地域の空気みたいなものを、形を変えて引き継ぎたい気持ちはありました。

店だけきれいにするのではなく、周りの歩道を整えたり、花を植えたりするのもその延長です。歩く人、地域のお年寄り、子どもたち、観光で来る人。誰が見ても『この辺、なんかいいな』と思えるような場所にしていきたいんです。

島の素材を「そのまま」で終わらせず、商品に変える

――カフェだけでなく、石鹸や化粧水などの商品開発にも取り組んでいます。ものづくりはどこから始まったのでしょうか?

最初は石鹸からでした。そこからコーヒーやスキンケア商品など、少しずつ広げてきました。

島の素材だから何でもいい、というわけではありません。せっかく商品にするなら、宮古島ならではで、ちゃんと品質のあるものにしたい。素材そのものだけではなく、発酵させたり、成分を生かしたり、どうすれば価値が上がるかを考えています。

大学卒業後は島外でメーカーの仕事も経験しました。そこで『ものを作る』という感覚を学べたことは、今の商品開発にもつながっていると思います。

――地域には、まだ商品になっていない素材がたくさんあると感じますか?

ありますね。普通に自生していたり、昔から地域では知られているけれど、商品にはなっていないものもある。『これ、もったいないよね』と思うことがあります。

ただ、思いついたら何でも一気にやるという感じでもないです。試して、違えば直す。大きな失敗にならないくらいの規模でやってみて、反応を見ながら修正していく。

はまるものもあれば、全然はまらないものもあります。でも、やってみないと分からない。その繰り返しですね。

――商品づくりと、地域づくりは砂川さんの中でつながっていますか?

つながっています。商品だけ作って終わりではなくて、その商品をきっかけにこの地域を知ってもらえたらいい。

同じように、カフェだけを良くしても周りが荒れていたら、場所全体としては良くならない。だから歩道の手入れをしたり、花を植えたり、ゴミを拾ったりする。

植物も、手をかけなければ自分から『助けて』とは言ってくれません。ちゃんと見て、変化に気づいて、手を入れ続けないといけない。会社も地域も、同じだと思っています。

一度外へ出たからこそ、地域からもらったものに気づいた

――宮古島へ戻って起業することは、以前から考えていたのでしょうか?

最初から『絶対に宮古で起業する』と決めていたわけではありません。大学進学で島外へ出て、そのまま仕事をしていました。

ただ、離れて暮らしている中で、子どもの頃に地域の人たちからすごく可愛がってもらっていたことを思い出すようになったんです。親や家族だけじゃなくて、近所のおじさん、おばさんからも愛情をもらって育ったという記憶があります。

都会は便利で、安全で、快適でした。それでも『このままでいいのかな』『何か返した方がいいんじゃないか』という気持ちはどこかにありました。

戻ってきて会社を始めてから、最初の数年は本当に大変でした。お客様も定まっていないし、店の形も試行錯誤。今の形になるまでには時間がかかりました。

――苦しい時期を、どうやって乗り越えてきましたか?

長い目で見ることですね。苦しい時って、それがずっと続くように感じるじゃないですか。途中でやめたくなるし、方向を変えたくなる。

でも、ある程度続けると、少しずつ『あ、こういう感じなんだ』と見えてくる。最初の数年は本当に苦しかったですけど、続けてきたから今があると思います。

よく、経営者というとパワフルで、瞬発力があって、前に出ていく人をイメージすると思います。でも、別にオラオラしていなくてもやれるんです。

自分の性格に合った場所、自分に合った競争の仕方を選ぶことも大事だと思っています。

派手な一発より、小さな気づきを続ける

――人や仕事の面では、どんなことを大切にしていますか?

人については、数を増やせばいいわけではないと感じています。以前は人が定着しないことに悩んだ時期もありました。

働く時間や条件を一つに固定するのではなく、短時間でも力を発揮できる人がいる。長距離を走れる人だけを集めるのではなく、瞬発力のある人が何人かいる方が合う仕事もある。

最近は、人数を追うというより、それぞれの人が力を出せる働き方を考える方が大事だと思うようになりました。

――これから、ぬくmoriをどんな会社にしていきたいですか?

ベースにあるのは、やっぱりものづくりです。カフェもやって良かったと思っていますし、こういう場所をもう一つ作ることも面白いと思います。

一方で、商品を作って島外へ届けることには、まだ可能性があると思っています。子どもの頃から、外国の人と関わってみたいとか、外の世界で仕事をしてみたいという気持ちもありました。

大きなことを一気にやるというより、一つずつ考えて、一つずつ動いて、それがつながっていけばいい。今までそうしてきたので、これからも同じだと思います。

――若い人たちに伝えたいことはありますか?

最初から全部うまくいくことはないと思います。苦しい時期はあるし、向いていること、向いていないこともあります。

大事なのは、自分に合う場所ややり方を見つけること。そして、やると決めたら、ある程度は続けることです。

うまくいっていない時って、もしかすると途中で手入れを止めてしまっているだけかもしれない。植物と一緒で、毎日見て、小さな変化に気づいて、手を入れ続ける。

派手な一発がなくても、小さなことを積み重ねれば形になる。僕自身、そのやり方でここまで来たんだと思います。

【プロフィール】
株式会社ぬくmori 代表取締役 砂川 丈見(たける)
生年月日:1980年8月生
出身:宮古島
経歴:大学進学を機に島外へ。メーカー勤務などを経験した後、宮古島へUターン。株式会社ぬくmoriを立ち上げ、cafe nuisの運営や、地域素材を生かした商品開発などに取り組む。
大切にしていること:地域にあるものに気づき、手を入れ、続けること

【編集後記】
砂川丈見社長の話には、いわゆる「経営者らしい大きな言葉」があまり出てきません。代わりに出てくるのは、歩道の花、地域のおじいちゃんやおばあちゃん、使われていなかった倉庫、まだ商品になっていない植物、働く人それぞれのペース。

その一つひとつを拾い上げていくと、ぬくmoriが何をしている会社なのかが見えてきます。

地域にあるものを見つける。少し手を入れる。商品にする。場所にする。人が集まる。続ける。そして、また次の小さな違和感や可能性に気づく。

派手に勝ちに行くのではなく、自分に合った場所で、自分に合ったやり方を続ける。砂川社長が話した『オラオラしなくてもやれる』という言葉は、その経営スタイルをよく表しています。

城辺に残る原風景も、カフェも、商品も、歩道の花も、放っておけば同じ姿のまま残るわけではありません。大切なのは、変化に気づき、手をかけ続けること。

株式会社ぬくmoriという名前の通り、砂川社長の仕事は、地域にある小さな温度を拾い上げ、それを次の形へ育てていく仕事なのだと思います。