第3節 悩みを執着に変えない手放し方
~過去にしがみつかず、「偽ポジティブ」に気づくために~
悩みたいときは悩んでもいい
悩みたいときには、悩んでもいいと思います。
悲しいときに無理に笑う必要はありませんし、つらい出来事があったときに、すぐ気持ちを切り替えられなくても構いません。
人は悩むことで、自分の気持ちを整理したり、答えを探したりします。
だから、悩むこと自体が悪いわけではありません。
ただし、どれだけ考えても答えが出ないのに、同じことをいつまでも延々と考え続けるようになると、それは悩みではなく執着へと変わっていきます。
自分の力では変えられない過去や、すでに終わった出来事に心を縛られ続けている状態です。
そこまできたら、できるだけ早く手放すことが大切です。
悩みが妄想に変わるとき
悩み続けていると、まだ起きてもいないことまで想像し、不安がどんどん大きくなることがあります。
「あの人は、きっと私を嫌っている」
「このまま全部うまくいかなくなる」
「最後には、私は一人になる」
「また同じ不幸が起きるに違いない」
頭の中で、まるでドラマの脚本のような壮大な物語をつくり上げ、自分を悲劇の主人公にしてしまうのです。
事実よりも想像のほうが大きくなり、まだ起きていない未来にまで傷つけられてしまう。
それは、妄想の底なし沼に浸かっているような状態です。
考えれば考えるほど、不安は深くなります。
そして、抜け出そうとしても、さらに別の不安が浮かび、どこまでも沈んでいってしまいます。
そのようなときには、悩みに答えを出そうとするよりも、まずは悩むこと自体をやめる必要があります。
悩む自分に飽きてしまう
どちらかというと、私は長く悩むことが苦手です。
しばらく考えても答えが出ないと、
「もう、めんどうくさい」
「まあ、いっか」
「別にいいや」
となります。
悩んだとしても、せいぜい三時間くらいが限界でしょうか。
同じことを何度も考えているうちに、悩んでいる自分に飽きてしまうんです。
もちろん、すぐに切り替えられない人もいます。
それでも、どこかのタイミングで、
「もう、このことを考えるのは終わりにしよう」
と、自分で区切りをつけることが必要です。
悩み続けても過去は変わりません。
それならば、これから何ができるのかに意識を向けたほうが、未来は変わっていきます。
一年後には笑い話にする
悲しいことや大変なことで、心がいっぱいになったとき、私はこう考えるようにしています。
「一年後には、この出来事をネタにして、みんなに話して笑おう」
今は笑えないことでも、時間がたてば笑って話せる日が来るかもしれません。
私にとって、病気も借金も、今では人に話せる経験の一つになりました。
経験している最中は、本当につらいものです。
けれども、終わった出来事であれば、いつまでも苦しみの中にいる必要はありません。
「あのときは本当に大変だったよね」
と笑って話せるようになれば、その出来事はもう、自分を傷つけるだけの記憶ではなくなります。
乗り越えてきた証しとして、自分の力に変わっていくのです。
過去を嘆くより未来へ進む
悲しかった気持ちや苦しかった経験に、一年も二年も、何十年もしがみついていたとしても、過去に起きた出来事は変わりません。
もちろん、簡単に忘れられない出来事もあるでしょう。
けれども、忘れられないことと、そこに執着し続けることは違います。
記憶として残っていても、その出来事に自分の人生を支配させないことはできます。
過去を何度も嘆くよりも、
「これからどう生きたいのか」
「今の自分に何ができるのか」
「次はどのような選択をしたいのか」
と、未来へ目を向けていきたいですよね。
手放すというのは、出来事をなかったことにすることではありません。
その出来事に、自分の今と未来を支配させないと決めることです。
手放すのが苦手になる理由
育てられた環境によっては、過去のつらい出来事を笑い話にできない人もいます。
親がいつまでも過去の怒りや恨みを抱え、何度も同じ話を繰り返している家庭で育つと、子どもも気持ちの手放し方を学ぶことができません。
嫌な出来事は忘れてはいけない。
傷つけられたことは、いつまでも恨み続けるものだ。
過去の苦しみは、何度でも思い出して語るものだ。
そうした考え方が、知らないうちに身についていきます。
その結果、自分に嫌なことが起きたときにも、気持ちを切り替えられず、何年もマイナスの感情を抱え続けるようになるのです。
三十年以上前の恨みを抱えていた人
私の友人のA子には、気持ちを手放すことが苦手なお姑さんがいました。
A子が結婚したばかりのころ、そのお姑さんは、自分が嫁いだ当時の話をしたそうです。
「私は末っ子の次男と結婚したのに、意地悪な姑と一緒に住むことになった」
「まだ結婚していなかったお義姉さんにも、意地悪をされた」
「お父さんのことを、今でも恨んでいるわ」
それは、三十年以上も前の出来事でした。
A子は、
「『恨んでいる』という言葉を真顔で言うから、怖くなった」
と話していました。
何十年たっても、その人の中では出来事が終わっていなかったのでしょう。
時間は過ぎていても、心は当時のまま止まっています。
過去をネタとして笑うこともできず、今もなお、自分を傷つける記憶として抱え続けていたのです。
手放せないクセは受け継がれる
そのお姑さんの子どもであるA子の夫も、気持ちを手放すのが苦手で、嫌な出来事を笑い飛ばせないタイプでした。
親が過去の怒りや恨みを抱えている姿を見ながら育ったため、その考え方が自然と刷り込まれたのでしょう。
これは、育つ中で身についたマイナスのクセです。
まるでDNAのように、親から子へ受け継がれているように見えることもあります。
けれども、そのお母さんもまた、自分の親や育った環境から、手放せないクセを受け継いだのかもしれません。
誰か一人が悪いわけではありません。
ただ、どこかの世代で誰かが気づき、気持ちを切り替えなければ、そのクセは次の世代へと続いていきます。
受け継いだクセは自分で終わらせられる
手放せないクセを、代々受け継いでいる人は少なくありません。
親がいつも人を責めていた。
家族が昔の恨みを何度も口にしていた。
嫌な出来事を何年も忘れず、繰り返し思い出していた。
そのような環境で育てば、自分も同じような考え方をするようになるのは、ある意味では自然なことです。
けれども、育てられ方によって身についたクセであっても、自分で気づけば手放すことができます。
「私は、親と同じように過去を抱え続けているかもしれない」
「この怒りは、本当に今の私に必要なのだろうか」
「この出来事を、次の世代にまで引き継ぎたいだろうか」
そう問いかけてみてください。
気づいた人が、その流れを止めればいいのです。
暗い過去は、少しずつ手放していきましょう。
いつか笑って話せるようになれば、人生はもっと軽く、楽しくなります。
「大丈夫」で現実から目をそらさない
魂からのメッセージを受け取ったとき、
「大丈夫、大丈夫」
「こんなの気のせい」
「私は前向きだから、悪いことは考えない」
と、自分に言い聞かせる人がいます。
一見すると、前向きでポジティブな考え方に見えるかもしれません。
けれども、本当に感じている不安や体の違和感を無視するために「大丈夫」と言っているのであれば、それは本当のポジティブさではありません。
私はこれを、「偽ポジティブ」と考えています。
たとえば、
「背中が重い」
「体のあちこちが痛い」
「いつもと違う感じがする」
という感覚があるなら、それは魂や体から届いたメッセージかもしれません。
本当は大丈夫ではないのに、「気のせい」と決めつけてしまえば、そのメッセージに耳を塞ぐことになります。
現実と向き合わず、見たくないものから目をそらしているだけなのです。
痛みを「大丈夫」で済ませていた女性
末期がんと診断された、ある女性の話です。
その女性は、何年もの間、体のあちこちに痛みを感じていました。
けれども、
「忙しくて疲れがたまっているだけ」
「休めば治る」
「私はすごくポジティブだから、前向きな言葉しか使いたくない」
「きっと大丈夫」
と思い続けていたそうです。
本当は、体が何度も異変を伝えていました。
それでも、「私は前向きだから」という考え方によって、そのメッセージに蓋をしていたのです。
この女性にとっては、ポジティブに考えているつもりだったことが、現実から目をそらすマイナスのクセになっていました。
ポジティブとネガティブは表裏一体
ポジティブとネガティブは、正反対に見えて、実は表裏一体です。
ネガティブな感情だけに偏ると、何を見ても悪い方向へ考えてしまいます。
反対に、ポジティブな感情だけに偏ると、危険な状況や体の異変まで、無理に良いものとして受け止めてしまいます。
どちらか一方だけに偏るのは、よくありません。
明るい面だけを見ようとすれば、目の前にある問題の本質を見失ってしまいます。
痛いのに「大丈夫」と言う。
苦しいのに「私は幸せ」と言い聞かせる。
怖いのに「何も問題はない」と思い込む。
これは、前向きなのではありません。
本当の感情や現実を受け止めることから逃げている状態です。
本当のポジティブとは現実を受け止めること
本当のポジティブさとは、何でも「大丈夫」と考えることではありません。
「今は苦しい」
「この状況は危険かもしれない」
「体に異変が起きている」
「このままではいけない」
と、現実を正しく受け止めたうえで、
「それでは、どうすればよくなるだろう」
「今できることは何だろう」
「誰に助けを求めればよいだろう」
と考えることです。
問題があることを認める。
必要なときには休む。
体調に不安があれば医療機関へ相談する。
苦しい環境から離れる。
自分の気持ちを誰かに話す。
そのように、現実を見たうえで前へ進もうとする姿勢が、本当のポジティブさなのです。
偽ポジティブは気づきにくい
偽ポジティブが危険なのは、自分では良い考え方をしていると思っているため、気づきにくいことです。
「前向きでいなければいけない」
「弱音を吐いてはいけない」
「悪いことを考えたら、悪い現実を引き寄せてしまう」
そう思うほど、自分の本音を押し込めてしまいます。
内側ではつらくて仕方がないのに、笑顔をつくり続ける。
体から異変が届いているのに、「気にしない」と言い聞かせる。
魂からのメッセージが届いているのに、「考えすぎ」と打ち消してしまう。
そのような状態が続くと、自分が本当は何を感じているのかさえ、わからなくなっていきます。
自分の本音に耳を傾ける
悩んでいるなら、
「私は今、悩んでいる」
と認めてください。
悲しいなら、
「私は悲しい」
と受け止めてください。
怖いなら、
「本当は怖いんだ」
と、自分の気持ちを否定しないでください。
そのうえで、悩み続けるのか、手放して次へ進むのかを選びます。
前向きな言葉で本音を隠す必要はありません。
マイナスの感情も、魂や心が何かを伝えるための大切なサインです。
その感情を正しく受け止め、必要な行動につなげることができれば、マイナスに見えた感情も、自分を守るための力へと変わります。
悩むときは悩む。
泣きたいときは泣く。
けれども、いつまでもそこにしがみつかない。
過去への執着と、現実を隠す偽ポジティブを手放すことで、魂は再び自由に動き始めるのです。
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