第2節 心と体を守る「手放す」という選択
~浅くなった呼吸を整え、苦しみから離れる勇気を持つために~
心の状態は呼吸と脈に表れる
心が満たされ、幸せを感じているとき、私たちの呼吸や脈は穏やかになります。
おいしいものを食べて、
「幸せ〜」
と感じた瞬間、自然に深く息を吐き出すことがありますよね。
自分では意識していなくても、体は深呼吸をして、緊張をほどこうとしているのです。
反対に、欲張りすぎたり、嫌なことを考え続けたり、マイナスの感情にとらわれたりすると、体は緊張した状態になります。
血圧が上がり、脈が速くなり、筋肉がギュッと縮まる。
そして、呼吸も浅くなっていきます。
心の中で起きていることは、呼吸や脈、筋肉の緊張となって、体に表れているのです。
「嫌だ」という感情を我慢し続けない
「嫌だ」
「つらい」
「もうやりたくない」
そのように思う出来事が続くと、知らないうちに呼吸が浅くなり、脈が速くなることがあります。
マイナスの感情を持ってはいけないと思い、無理に我慢する必要はありません。
まずは、
「私は今、嫌だと感じているんだな」
「つらいと感じているんだな」
と、自分の感情を認めてください。
そのうえで、心の中で、
「吸って、吐いて」
と唱えながら、ゆっくり呼吸を整えてみましょう。
大きく息を吸い、時間をかけて吐き出します。
呼吸を整えるだけでも、体の緊張が少しずつゆるみ、気持ちが落ち着いていきます。
集中しすぎると呼吸を忘れてしまう
仕事や勉強に集中しているとき、
「あれ、今まで息をしていなかったかも」
と感じることはありませんか。
もちろん、実際に呼吸が止まっていたわけではありません。
それほど呼吸が浅くなり、息をしている感覚が薄くなっていたのです。
マイナスの感情を持っていなくても、一つのことに集中しすぎると、心と体には緊張が生まれます。
自分では順調に仕事をしているつもりでも、体はストレスを感じていることがあります。
だからこそ、仕事や勉強の途中にも、意識して呼吸を整える時間が必要です。
一時間に一度くらいは手を止め、深く息を吸って、ゆっくり吐き出してみてください。
立ち上がって体を伸ばしたり、窓の外を眺めたりするのもよいでしょう。
休むことも集中するために必要
学校では、一時間ほど授業を受けると休み時間があります。
これは、人間の体や集中力に合った仕組みなのだと思います。
人の集中力は、何時間も途切れることなく続くようにはできていません。
集中力が切れているのに、無理に続けようとすれば、呼吸は浅くなり、体に力が入り、頭も働きにくくなります。
休むことは、怠けることではありません。
一度緊張を手放し、再び集中するために必要な時間です。
頑張り続けることだけが、前へ進む方法ではありません。
立ち止まること、休むこと、力を抜くことも、自分の心と体を守るための大切な行動なのです。
苦しみを抱えていた友人
私の友人に、夫からのモラハラや暴力に苦しんでいた女性がいました。
ある日、彼女は夫に殴られ、目の周りが真っ黒になるほどのけがをしました。
その姿を見かねた息子が、
「もう逃げてほしい」
と伝えたそうです。
彼女には、それまでにも家を出る機会が何度もありました。
けれども、逃げることができませんでした。
同居している父親の介護があったからです。
「父を残して逃げることはできない」
そう考え、自分が家に残る理由にしていました。
もちろん、父親を心配する気持ちは本物だったでしょう。
けれどもその一方で、夫への恐怖から目をそらすための理由にもなっていたのかもしれません。
息子の言葉に背中を押されて
その日、息子は彼女に言いました。
「逃げて」
「おじいちゃんのことは大丈夫だから」
その言葉に背中を押され、彼女はようやく家を出ることができました。
そして、隣町に住む姉の家へ逃げました。
けれども、家を離れてからも、彼女の心には迷いがありました。
本当に逃げてよかったのだろうか。
家へ戻ったほうがいいのではないか。
自分が我慢すれば、すべて丸く収まるのではないか。
長い間、暴力や恐怖のある環境にいたため、家を離れてもすぐには気持ちを切り替えることができなかったのです。
離れて初めて気づいた本当の恐怖
ところが、いったん家を離れると、今度は怖くて戻れなくなりました。
安全な場所へ移動して初めて、夫の暴力がどれほど恐ろしいものだったのかに気づいたのです。
思い出すだけで、体の震えが止まらなくなりました。
それまで彼女は、恐怖を感じないように、自分の感情へ蓋をしていたのでしょう。
「私は大丈夫」
「まだ我慢できる」
「家族のために頑張らなければいけない」
そう思い込むことで、恐怖を見ないようにしていたのです。
けれども、家から離れ、安全な場所へ移った瞬間、押し込めていた感情が一気に表れました。
そして同時に、
「逃げることができて、本当によかった」
と、心の底から安心したそうです。
感情に蓋をすると危険に気づけなくなる
後日、彼女は私にこう話しました。
「ずっと、夫が怖いという感情に蓋をして、気づかないふりをしていたのよね」
本当は、ずっと怖かった。
逃げたかった。
助けてほしかった。
けれども、その感情を認めてしまうと、今の生活を変えなければならなくなります。
そのため、父親の介護や家族への責任を理由にして、自分の恐怖を心の奥へ押し込めていたのでしょう。
人は、とても苦しい状況に置かれていても、
「家族のためだから」
「自分さえ我慢すればいい」
「頑張ることが正しい」
と、無理に前向きな理由をつくることがあります。
けれども、それは本当の意味での前向きさではありません。
自分の本心や危険な状況から目をそらすための、偽りのポジティブさになっていることがあります。
頑張ることを手放してもいい
今いる場所がつらいのであれば、頑張ることをやめてもいいのです。
苦しい人間関係から離れてもいい。
危険な場所から逃げてもいい。
すべてを背負うことを手放してもいい。
逃げることを、弱さや負けだと思う人もいるかもしれません。
けれども、自分の心や体、命を守るために離れることは、決して間違った選択ではありません。
笑うこともできないほど苦しい場所で我慢し続けるよりも、安心して眠り、心から笑える場所へ移るほうが大切です。
自分の人生は、自分のものです。
誰かの期待や世間の考え方よりも、自分が安全で穏やかに暮らせることを優先してよいのです。
暴力や強い威圧がある場合には、一人で解決しようとせず、安全な場所へ移動し、家族や信頼できる人、専門の相談窓口へ助けを求めてください。
「逃げる」は自分を守るための行動
「逃げる」という言葉だけを見ると、マイナスの行動に感じるかもしれません。
けれども、
「恐怖から逃げる」
「暴力から逃げる」
「自分を壊す環境から逃げる」
と考えると、その意味は大きく変わります。
マイナスの状況から離れることで、自分の安全や自由を取り戻すことができるからです。
一見するとマイナスに思える行動でも、組み合わせ方によっては、未来をプラスへ変える力になります。
恐怖から逃げることは、恐怖に負けることではありません。
自分を守り、もう一度人生を歩き始めるための選択なのです。
手放すことで新しい流れが生まれる
私たちは、何かを手放すことに恐怖を感じます。
仕事を手放す。
人間関係を手放す。
役割を手放す。
頑張り続ける生き方を手放す。
手放したら、自分には何も残らないように思うかもしれません。
けれども、両手で古いものを強く握りしめている間は、新しいものを受け取ることができません。
苦しみや恐怖、無理な責任を手放すことで、初めて心と体に余裕が生まれます。
呼吸が深くなり、脈が穏やかになり、自分の本当の気持ちが見えてきます。
魂から届くメッセージにも、気づきやすくなるでしょう。
手放すことは、諦めることではありません。
自分に必要のないものを見極め、自分の人生を取り戻すための行動です。
心と体の声を無視しない
呼吸が浅くなっている。
胸が苦しい。
体に力が入っている。
その場所へ行くことを考えるだけで、脈が速くなる。
こうした体の反応は、心や魂が送っている大切なメッセージかもしれません。
無理に頑張り続ける前に、一度立ち止まってみてください。
「私は何を怖がっているのだろう」
「本当は何をやめたいのだろう」
「何を手放せば、呼吸が楽になるのだろう」
そう自分に問いかけてみましょう。
そして、必要であれば、苦しみから離れる選択をしてください。
ゆっくり息を吸い、長く吐き出す。
その一呼吸から、心と体を守る新しい一歩が始まります。
カウンセリング
Spiritual Counseling
~あなたの未来を鑑定して心から不安を開放します。~