お葬式に参列する機会はそう多くはありません。喪服は用意していたとしても、「靴はとりあえず手持ちの黒いもので…」と考える人も多いのではないでしょうか。お葬式に参列するときは「黒色」で揃えるのがマナーですが、「黒だったら何でもよい」ということでもありません。
たとえば、秋冬に良く見かけるスエード素材ですが、これが使用されている靴はお葬式ではマナー違反にあたります。「喪服さえ着ていれば、靴はあまり見られないから大丈夫」と思っていても、実際は自分の予想以上にチェックされているものです。今回は、スエードをはじめとする、葬儀にはNGな靴の素材をご紹介します。また、靴のマナーやお手入れ方法などもご紹介しますので、最後までお読みいただき葬儀マナーとしてお役立てください。
スエード素材の靴はお葬式にはNG
お葬式に参列しようとして手持ちの靴を確認したときに、黒いスエード素材の靴があったとします。派手なデザインでなく、色も落ち着いていたらお葬式に履いていってもいいのでしょうか。結論から述べると、スエードの靴はNGアイテムとなります。
その理由は、仏教の教えとスエードの素材の関係にあります。スエードとは、牛や山羊・羊など小動物の皮を叩いたりなめしたりしたあと、磨いた素材のことを指します。 そして、仏教の教えの中で最大の罪として禁止されていることは、「殺生を連想させるもの」「生き物を大切にせず殺すこと」です。つまり、動物の素材を使用している「スエードの靴」というのは、仏教においては相応しくないものということになります。
ご遺族に対し「死」「亡くなる」といった言葉を使用するのは、葬式マナーとしてNGですが、同様の理由で「死を連想させる」アイテムも使用するべきではないとされています。
スエード「風」もダメ?
スエードのような起毛加工が施されている合成皮革の靴もあります。本物のスエードと比べ、お手入れが楽で軽く履きやすいため、愛用している人も多いかもしれません。しかし、スエード風の素材の中には、見た目の区別がつかないものもあります。本物の革を使用していなかったととしても、誤解を招くこともあるため葬儀に履いていくのは避けた方が良いでしょう。
【男女共通】スエード以外にお葬式に適していない素材の靴
スエード以外で葬儀に適さない靴もあります。たとえば、爬虫類の素材もスエードと同様の理由でお葬式には適しません。また、光沢があるエナメル素材もNGです。それぞれについて、以下で詳しく解説します。
爬虫類などの革素材の靴
クロコダイル、ヘビといった爬虫類素材の靴も当然禁止です。比較的年配の男性が履くイメージなので、家族が葬儀に行くときに履こうとしていたら止めた方が良いでしょう。ちなみに、爬虫類素材の靴や鞄は、結婚式でもNGマナーとなります。殺生を連想させる素材は冠婚葬祭全般において適さないため注意しましょう。
エナメル素材の靴
ツヤツヤとした光沢が輝く、エナメル素材の靴もお葬式には適しません。故人との別れを偲ぶ場なので、華やかな見た目の靴は避けましょう。ただし、ストラップ部分など一部のみに光沢があるようなデザインの場合、年齢によっては許容範囲としても良いでしょう。
【男性編】お葬式に適した靴
お葬式に履いていく靴はどのようなタイプが適しているかご紹介します。葬式用として1足買いそろえる場合や、手持ちの靴が使用できるか参考にしてください。
素材
スエードやヘビ、クロコダイルといった見た目ですぐに分かる革素材は控えた方が良いです。しかし、ビジネスシューズやフォーマルシューズの「本革」に関しては、そこまでこだわる必要はありません。その理由としては、最近の合成皮革は本革と見分けがつきにくくなっている商品が多いからです。見た目はほぼ同じなので、好みに応じて選ぶと良いでしょう。 合成皮革と本革の靴はそれぞれ一長一短があるため、 以下でご紹介します。
素材 | 長所 | 短所 |
本革 | 大切に取り扱うと長持ちする 履いていくうちに足に馴染む | 手入れに手間がかかる 合成皮革と比べると価格が高い 雨の日には履けない |
合成皮革 | 軽い 手入れが楽 安価で手に入ることが多い 防水加工がされているタイプもあり雨の日も安心 | 傷がつくと目立ち、あまり長持ちしない 合成皮革ならではの光沢が少しある |
本革のフォーマルシューズは、お手入れ次第で長持ちするため1足用意しておくといざという時に安心です。また、学生の場合は制服にローファーが望ましいですが、持っていない場合は落ち着いた色合いのスニーカーでも問題ありません。ただし、汚れがある場合は洗ったり拭いたりしておきましょう。
デザイン
男性用のフォーマルシューズは、靴ひもの先が外に出ない「内羽根」とよばれるタイプが適しています。さらに、靴先と甲の部分に縫い目が直線状にある「ストレートチップ」を選ぶと、フォーマル度が上がります。「バックル」など飾りが付いたタイプはカジュアルな印象を受けるので、お葬式用の靴として使用するのは避けた方が良いです。
靴の色
靴のカラーは黒一色がベストです。落ち着いた色味であってもブラウンなどはお葬式には適さず、会場で浮いてしまう可能性があるので気を付けましょう。
【女性編】お葬式の靴マナー
お葬式にはパンプスが適していると言われていますが、パンプスにもさまざまな種類があるため悩むこともあります。ここでは、どのようなタイプを選ぶと良いのかご紹介します。
パンプスの色
お葬式に履いていく靴は黒一択です。ブラウンやグレーなど、カジュアルな雰囲気になる色を選ぶのはやめましょう。表面は黒一色でも、かかとに色の切り替えがあるようなデザイン性の高いパンプスもお葬式用としては適しません。
パンプスのデザイン
女性の場合、葬儀に履いていく靴は「布素材のパンプス」が適していると言われています。しかし、布素材のパンプスは手に入りにくいことが多いため、シンプルなデザインであれば布素材にはあまりこだわらなくても良いでしょう。
ヒールの高さ
ヒールは引く過ぎても高すぎても、お葬式には適しません。3~7cmくらいの高さがあるのが望ましいです。10cm以上の高いヒールや先がとがっているタイプは避けましょう。また、ヒールが全くないシューズもカジュアルな雰囲気が出てしまうので、特別な理由がない限りは避けた方が無難です。
ストッキングにも気を付ける
靴ばかりに気を取られてしまいますが、ストッキングの色も葬儀マナーとしては大切なポイントです。肌色のストッキングや素足はさけ、黒いストッキングを履きましょう。しかし、梅雨や夏の暑い時期は、ストッキングを履きたくないと思う方もいるかもしれません。その場合は、接触冷感タイプのストッキングや膝上の長さのストッキングを選ぶと不快感を和らげてくれます。
葬儀から帰ってきたら早めのお手入れを
葬儀用として用意した靴は、出番が少ないからこそ長く大切に履きたいものです。お葬式から帰ってきてすぐに下駄箱にしまうのではなく、素材に適した方法で手入れを行い、しっかり乾燥させてからしまいましょう。購入した時の箱などに入れたままにする方も多いですが、密閉した中に入れておくとカビの原因になります。梅雨のシーズンなどは1度取り出し、靴の状態を確認しておくと安心です。
湿度が心配なら乾燥材などを入れてから収納しましょう。また、靴の表面を傷や汚れから守るために、履く前に靴全体に防水スプレーなどをかけておくと良いでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。近年は、葬儀の簡略化などが進み葬儀マナーも昔ほど厳しくありません。しかし、お葬式に身に着けるものを間違えると、ご遺族に対してお悔やみの気持ちが伝わりにくくなることもあります。参列する前に今一度持っているアイテムがお葬式に適したものか確認しておくと安心ですね。