2014年、明けまして、おめでとうございます!
みなさん、かぎ正月をお迎えのこととお喜び申し上げます。この一年も皆さんにとって上等一年でありますように!
今年、ぱずみのくま・かまをお届けします。お楽しみくださいね。
『正月ぬあやぐ』と『カニスマ』2014年みずどぅす(新年)
カニ(平良・西里出身)
カニが知っている宮古民謡で「正月のあーぐ」または「正月ぬあやぐ」はいくつかある。多くの宮古民謡を愛する歌い手が歌いCDなどに収録している。その中でも、特に友利明令氏、上田長福氏、そして上里恵光氏の歌う「正月ぬあやぐ」はひと際優れているように思う。
カニは3名の歌う「正月ぬあやぐ」を何度も聞いている。そうして上里恵光氏のそれは歌われる声に郷愁を呼び起こすような響きがありとても感動しながら聞いている。上里恵光氏の「正月のあやぐ」の詩は実は城辺上区で歌われている「カニスマ」の中に入っている。上里氏の生まれは城辺上区なので「上区カニスマ」とも言える。
トウガニ兄(スザ)が作ったといわれるトウガネ節には2つの歌い様がある。ひとつは格調高い「座敷様」、もうひとつは実に庶民的な香りのする「カニスマ様」である。「カニスマ」は野に山に海に、そして夏の夕べに、また秋の夜半に恋愛人情を詠んだ風情のある即興の詩が多い。
「トウガネ節」、「カニスマ節」、いずれも即興で詩をつくり心に浮かぶ思い思いを歌い表現するので、身分を問わず誰でも参加できる自由な人々の暮らしの表現でもある。「カニスマ」の詩の中に宮古人の気質すら感じ取れるのは私だけではあるまい。
娯楽の少ない昔の宮古人は即興で歌が作れる「カニスマ」に遊びを覚え、即興詩人のように情緒豊かに詩をつくり暮らしの遊びとし貧乏ながらも楽しく振る舞っていたかもしれない。
「トウガネ節」も所変われば節回しが変わるので、「野崎トウガニ」「福里トウガニ」「友利トウガニ」「荷川取トウガニ」そして有名な「伊良部トウガニ」などと名前が付けられている。
それではカニが最も好きな節回しの上里氏が歌う城辺・上区カニスマより「カギショウガツ」「ウヤヌナラアス」の章を紹介する。
「かぎしょうがつ」 かぎ正月ぬ まーん (めでたい正月が) んみゃーまたりゃーどぅよー (訪れますよ) がんずぅみずどぅすぬ (健やかな新年を) んみゃーまたりゃーどぅよーーーい(迎えることがきましたねぇ) みゃーくとぅなぎ まーん (いつまでも永久に) すまとぅなぎ (健やかさが続きますよう) まう"ぁりさまちよーー(見守ってください)
「うやぬならあす」 うやぬならあすぬどぅ まーん (父親の教えは) むにんゆすぅまりよ (胸に染まり) あんながかざぬどぅ (母親の教えは) きずむんそぅまりよーーーい (肝に染まるよ) きずむかぎさゆ うやあんなぃ (心の美しい父母よ) みゃーくとぅなぎ (永遠に) まう"ぁりさまちよ (いつまでも健やかであらんことを)
初めて知る親の好きな民謡
菜の花(伊良部町仲地出身)
宮古島での三線発表会からかれこれ一カ月余り経とうとしている。なのにまだまだ余韻が残る今日この頃。
くまかまで正月号に親の好きな民謡をと。あきちゃみ(あれまー)!よーく考えてみたけど、お父はどの民謡が一番好きだったか知らないさー。
母ちゃんに、「お父が一番好きな民謡はなんだった?」と、改めて聞いた。すると母ちゃん「なんでも唄っていたからね〜。なにがすきだったかね〜。本人に聞いて!」と。母ちゃんよー。それができないから聞いているさー。
しばらく考えていたあと、「夫婦船、愛の雨傘、デンサー節とかはよーく唄っていたよ。」と。「それって琉球民謡でしょ。じゃあ、宮古民謡ではなにが好きだった?」
「あんたは何でも聞くね〜。」と半ば呆れる母ちゃんが答えたのは「なりやまあやぐ、伊良部トーガニ、家庭和合」だった。
「あれ?東里真中は?」いつも唄っていた気がするので確認。「あれはあんまり唄えんから、覚えるのにいつも唄ってばっかしいたさー。」と。へえ〜、そうなの。てっきり好きで唄ってばかりかと思っていた。意外にもお父が好きなのは琉球民謡だった。
「夫婦船」の歌詞を探してみた。
女)世界(しけ)や果てぃなしぬ 船路旅心 夫婦(みとう)やかふかや 頼(たゆ)いならん かなし夫婦船(くりかえし) 男)夫(をとぅ)や帆柱(ふばしら)に 妻(とうじ)や船心 如何(いちゃ)る波風ん 共どぅやゆる 女)船とぅ帆柱や 浮世風(うちゆかじ)まかし 極楽ぬ港 着ちゃる間や 男)互に肝合わち 走り夫婦船 時ぬ来る迄や 漕がねなゆみ 「愛の雨傘」は古い唄らしいけど、私は聞いたこともない。 知らん国なかい 親兄弟ん居ら 乾く間やねさみ 袖ぬ涙 肝悔やむなよ イエーうんじゅ
「デンサー節」は私も好きな民謡のひとつだ。三線教室でも習った。「なりやまあやぐ」「伊良部トーガニ」「家庭和合」からは夫婦円満の秘訣、男女愛、家庭円満を謡っているイメージを強く感じる。
お父は亡くなる前に、母ちゃんに「かなしゃーい あっつぁんぶとぅいいつまい みーぶらでぃ(直訳:愛しい人よ 近くに居て いつも 見ているよ)」と言葉を残し、声にならない声で伊良部トーガニを唄ったと母に聞いて泣いてしまった。
その昔、お父と母ちゃんは、かけおちして沖縄本島に渡ったという。二人は仲が良くて、お父は仕事仲間の間でも愛妻家で有名だった。でも、すごい大喧嘩もしていた。お父が亡くなった今でも、母ちゃんはのろけ話を平気でする。別にいいんだけどさ・・・。
幼児の頃に父親を亡くしたお父。七歳年下の母ちゃんを大事にして(子供のように甘やかして)いたお父。そのお父の好きな民謡は情歌であり、家庭の安寧を願う謡であると知り、お父の思いを垣間見るようだった。
それから、お父は若い頃から自己流で三線を弾いていたこと、伯父さんの家にあった古い三線を借りて弾いていたことも初めて知った。
お父が自分の三線を持ったのは私が小学4年生か5年生の頃。仕事で石垣島に出張した時に黒檀の木を持って帰ってきた。それを那覇で三線に作ってもらった。
お父は三線を弾くこと、唄うことが本当に好きだった。寝っ転がりながら。祝いの席で。とかくお客さんの多い家だったので宴会になったとき。夕食の後に。と、いつも三線を弾いていた。どの記憶にもお父の唄と三線が響いている。
お父が亡くなったのは今から、19年前。
お父の七回忌で見た形見の三線は、埃にまみれてカビが生えていた。あれほどお父が大事にしていた三線。弾き手を求めて悲しんでいるように思え、私がこの三線を弾く!そう決めてから、今では毎年帰省のたびに、必ずお父の三線を弾く。お父が生きていたら、一緒に三線を弾きたかったな。
ちなみに母ちゃんはどんな民謡が好きか訊ねたら、「何でもすき。特別はないよ。」と即答。いきなり携帯の向こうから「酒田川」を唄ったかと思えば、「月が照る夜には窓から月を見上げてよく唄うよー。題名(曲名)はわからんけどね。」
♪月や昔から変わるごとねーらん
変わてぃいくむぬや さとが心よ♪ と唄い出した。
あの世でお父が返歌しているように思えたけど・・・気のせい?!
◇あの話をもう一度
マツカニ(上野・高田出身)
「酒田川 どうかってぃ解説」vol.67(2004/1/1)
明けましておめでとうございます。
年初めの 民謡どぅかってぃ(自分勝手)解説は、酒宴の席の献杯の時に唄われてきたという「酒田川」を取り上げます。
酒田川 どうかってぃ 1さきだがぬ みずだき いでぃさざり うーがにゃあん イカヨウヌチュウラヘ(ハヤシ) 2すたからや ばきゃあがり ういからや むりゃすぅい イカヨウヌチュウラヘ 3ぬみばまい ぴならん ふみばまい ふぐまん イカヨウヌチュウラヘ 4ぴとぅぱだぬ かぎさや さきだがあぬ みずだき イカヨウヌチュウラヘ 5みゃあくとぅなぎ ばんたーや すまとぅなぎ ゆからでぃ イカヨウヌチュウラヘ
(訳)
1酒田川の 水と同じだけ 絶え間なく流れでるように
2下からは 湧き出でて 上からは盛り添えて
3飲んでも 減らない 汲んでも へこまない
4人としての美しさは 酒田川のみずのように
5宮古島があるかぎり 私たちは 島とともに豊かになりましょう
(解説)
酒田川(崎田川)は、沖縄製糖工場(下地町)のすぐそばにある川である。酒田川の水のように 酒はたくさん用意してありますので 遠慮することなく、たくさん飲んで下さいという意味が込められているそうです。4、5番はオトーリの口上に使ってもいいような、めでたい感じがします。曲調は宮古島の民謡のなかでは ちょっと変わった感じがしますが、美しい旋律で人気のある唄です。
それではクマカマにつながる皆様が ゆかす゜とぅっすぅ んかいらいようん にがいゆうてぃ きゅうや くまがみ(よい年を迎えられますよう願いまして、今回はここまで)
東里真中(あがずざとんなか)
ざうかに(平良・宮原出身)
1.東里真中(あがずざとんなか)んよ ホーニャーホーイ どうぬ ぐしく サーユイサ 真中んよ ウチュラヨー ナカサン ウトガマ ユマサン ウトガマ 4.ふにりやぎや いびわあしよ 香しや木や さしわあしよ
この唄を唄う時、幼いころの情景、風景が想い浮かんで、懐かしいやらうれしいやら、何かなんとも言えない ぴるます(不思議な)気分になります。時には涙を流しながら唄っています。
僕がこの唄に触れたのは、たぶん4、5歳のころだと思う。記憶が正しければだが。理屈ぬきに好きな唄です。きっとおじいの影響があるのかもしれません。
僕のおじいは明治生まれで頑固者で、時には うとるす(怖い)と感じる人でした。でも僕はおじいの初孫のせいか、特別だったようでかわいがってもらいました。そんなおじいの家にいつも遊んでいました。
おじいは農作業を終えて、陽が沈むころになると晩酌の始まりです。三線片手に酒を飲み、唄い、語り、酔いつぶれていました。
そんなおじいの傍で三線を聴いている時間がたまらなく好きでいろいろな唄を教えてもらいました。
おじいが三線を置いてしょんべんタイムになると、その三線を手におじいの にゃーび(真似)をして、よく笑われました。
「東里真中」を唄う時、いつもおじいがそばで見ているような気がして何とも言えない優しい気持ちになります。
この唄は宮古民謡で僕が初めておじいに教わった唄です。宮古らしい唄です。
みなさんも、ぜひ唄ってみてください。
編集後記
松谷初美(下地・高千穂出身)
おかげさまで今年も正月号を無事に発行することができ、ぷからすーぷからすとしています。
12月25日から宮古に帰ってきています。雨の日が多く、キビのばらん(穂)も ぴしぎなり(寒そうに)していましたが、きのうの元日は、ぞうーわーつき゜(良いお天気)で、穏やかな正月となりました。心新たな気持ちです。
宮古からのくま・かま発行は久しぶり。お正月号は初めてかな。しーむぬも、魚のてんぷらも煮物も餅(切り餅ではなく、餡餅です)も ばたんつきゃ(お腹いっぱい)食べ、親戚の人たちにもたくさん会って、宮古らしい正月を楽しみながらくま・かま編集となりました。
みなさんはどんなお正月をお迎えですかー?
それから、私事ながら、夫が昨年早期退職をし、私も来る3月で仕事を終えて夫と宮古で暮らすことになりました。宮古に帰っても、もちろん、くま・かまは変わりなく続けていきます。今後ともどうぞよろしくお願いします。
さて、今号や のーしが やたーがらやー?
正月ということで民謡を特集してみました。
カニさんからは正月らしいあやぐを紹介いただきました。即興で自分の想いを唄にする「トウガネ」や「カニスマ」。昔の人たちは情緒豊かですごいですねー。「上区カニスマ」は初めて知りました。ご紹介のお三方の歌声、ぜひ聴いてみたいと思います。
菜の花紹介のお父さんの唄からはお母さんとの仲睦まじい様子が伝わってきましたね。唄や三線は、人生に彩を添え、力にもなるんだと思いました。三線は人それぞれの傍らにありますね。お父さんの三線も菜の花に弾いてもらって、どんなにかうれしいことでしょう!
あの話をもう一度のコーナーは、マツカニさんの「酒田川」でした。そんなにメジャーな曲ではありませんが、いい唄だというのがよく分かりますね。正月の間どこかの家では流れていたかもしれませんね。マツカニさんの「どぅかってぃ解説」今年もどうぞお楽しみに!
ざうかにさんは、だいず久しぶりの登場でした。ざうかにさんはよくライブで「東里真中」を唄いますが、そういう理由だったんですね。三線をやるようになった原点でもあるのかなと思いました。ライブで活躍するざうかにさんを天国のおじいさんも今すごく喜んでいることでしょう!
貴方の感想もぜひお寄せくださいね。まちうんどー(待っていますよ)
今回まい、しまいがみ お付き合いくださり、すでぃがふー!
(今回も、最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!)
次号は、1月16日(木)発行予定です。お楽しみに〜。
この一年も がんずぅでいきましょうね〜。あつかー、またいら〜。