明けましておめでとうございます!
かぎ そうがっつぅ んかい うらまずぱずやー (佳き正月をお迎えのこととでしょうね)
今年最初のくま・かまをお届けします。 ぬかーぬか ゆみふぃーさまちよ〜。
するいど かぎさ(揃う 善さよ目出度さよ)
松谷初美(下地・高千穂出身)
宮古民謡に「豊年の唄(ほうねんのあやぐ)」というのがある。宮古の中で一番知られている民謡と言っていいかもしれない。私も やらびぱだ(子どもの頃)からよーく聞いていた。この唄の中に「するいど かぎさ」というフレーズが出てくる。唄は、次のように始まる。
くとぅすから ぱずみゃーしーよー サァサァ (今年を初めとして) みるくーゆーぬー なうらば ゆーや なうれ サァサァ (弥勒世 に なるように 世よ 直れ) <ハヤシ> よーいてぃば よーい だーきーよー サァサァ するいど かぎさ ぬ ゆーや なうれ (揃う 善さよ目出度さよ 世よ 直れ)
台風が毎年襲来し、時には干ばつに見舞われ、収穫もままならないことが多い みゃーく(宮古)。これまでは大変だったけれど、どうか今年からは、すべてがうまくいき、弥勒世、豊年の世になりますようにと願い唄う。
2番以降では、粟や穀物が数珠玉のようにたくさん実りますように、そうしたら、貢納物も納められ、納めた残りは、粟俵にして仕切りにしたり、腰当てにしたりする。そして粟のお神酒を作り、それが発酵する頃には、じとぅぬしゅう(地頭主)や めざすしゅう(目差主)をお招きし、世直しをする。また、親戚や村人を皆、招き、昼七日、夜七日飲み遊ぼうと唄う。
唄は13番まであるが、そのすべてにハヤシがつく。「揃う」の解釈はいろいろだが、粟や穀物がなんの弊害もなく収穫できる(揃う)こと。粟俵が出来揃うこと。地頭主や目差主を揃ってお招きできること。家族はもちろん親戚や村人が揃い、豊年の喜びを分かち合うこと。それこそが「かぎさ」であると唄っているように感じる。
「かぎ」の訳は、一般的に「美しい」と訳すが、この唄で「美しさ」と訳すのにはもの足りないものを感じる。『宮古史伝』の著者、慶世村恒任(きよむらこうにん)は、タウガネアヤゴの解説の中で、「美(か)ぎは、善きまたはお目出度の意」と書いている。まさにと思う。豊年の唄の「かぎ」も「善きこと、お目出度」と訳したほうがぴったりくる。
すべてが揃うことはそうそうないこと。だからこそ、そうなってほしいと願い唄う。何があっても次こそはと唄う明るさと前向きさ。ういど みゃーくぴとぅ(これぞ 宮古の人)。
この一年も、むぬふず(作物)が豊作でありますように。そして、みんなの「するいど かぎさ」が実現するよう にがい(願い)ばが ぱなすっさんにゃ しまい(私の話はおしまい)。
◇あの話をもう一度
カニ(平良・西里出身)
「『正月ぬあやぐ』と『カニスマ』」vol.307 2014/1/2
カニが知っている宮古民謡で「正月のあーぐ」または「正月ぬあやぐ」はいくつかある。多くの宮古民謡を愛する歌い手が歌いCDなどに収録している。その中でも、特に友利明令氏、上田長福氏、そして上里恵光氏の歌う「正月ぬあやぐ」はひと際優れているように思う。
カニは3名の歌う「正月ぬあやぐ」を何度も聞いている。そうして上里恵光氏のそれは歌われる声に郷愁を呼び起こすような響きがありとても感動しながら聞いている。上里恵光氏の「正月のあやぐ」の詩は実は城辺上区で歌われている「カニスマ」の中に入っている。上里氏の生まれは城辺上区なので「上区カニスマ」とも言える。
トウガニ兄(スザ)が作ったといわれるトウガネ節には2つの歌い様がある。ひとつは格調高い「座敷様」、もうひとつは実に庶民的な香りのする「カニスマ様」である。「カニスマ」は野に山に海に、そして夏の夕べに、また秋の夜半に恋愛人情を詠んだ風情のある即興の詩が多い。
「トウガネ節」、「カニスマ節」、いずれも即興で詩をつくり心に浮かぶ思い思いを歌い表現するので、身分を問わず誰でも参加できる自由な人々の暮らしの表現でもある。「カニスマ」の詩の中に宮古人の気質すら感じ取れるのは私だけではあるまい。
娯楽の少ない昔の宮古人は即興で歌が作れる「カニスマ」に遊びを覚え、即興詩人のように情緒豊かに詩をつくり暮らしの遊びとし貧乏ながらも楽しく振る舞っていたかもしれない。
「トウガネ節」も所変われば節回しが変わるので、「野崎トウガニ」「福里トウガニ」「友利トウガニ」「荷川取トウガニ」そして有名な「伊良部トウガニ」などと名前が付けられている。
それではカニが最も好きな節回しの上里氏が歌う城辺・上区カニスマより「カギショウガツ」「ウヤヌナラアス」の章を紹介する。
「かぎしょうがつ」 かぎ正月ぬ まーん (めでたい正月が) んみゃーまたりゃーどぅよー (訪れますよ) がんずぅみずどぅすぬ (健やかな新年を) んみゃーまたりゃーどぅよーーーい(迎えることがきましたねぇ) みゃーくとぅなぎ まーん (いつまでも永久に) すまとぅなぎ (健やかさが続きますよう) まう"ぁりさまちよーー(見守ってください)
「うやぬならあす」 うやぬならあすぬどぅ まーん (父親の教えは) むにんゆすぅまりよ (胸に染まり) あんながかざぬどぅ (母親の教えは) きずむんそぅまりよーーーい (肝に染まるよ) きずむかぎさゆ うやあんなぃ (心の美しい父母よ) みゃーくとぅなぎ (永遠に) まう"ぁりさまちよ (いつまでも健やかであらんことを)
んきゃーんぱなす(昔話)『正月の客』
さどやませいこ(城辺・新城出身)
ある村に、あがにゃー(東の家)の きばんやー(貧乏な家)と、いいにゃー(西の家)の うやきやー(金持ちの家)があったそうだ。
いいにゃー(西の家)からは、かばす んまむぬ(香りのよいご馳走)のかざ(香り)が漂っていた。そこへ、ぼろぼろの着物を着たおじいが訪ねてきた。(実は神さまだったのだ)
「さりー(ごめんください)、どうか一晩泊めてはもらえまいか」とおじいが頼むと、いいにゃー(西の家)の主人は「あがいたんでぃ んざぬ乞食が。(何てことだ。どこの乞食なんだ)正月早々、縁起でもない」と言って、塩をまいて追い返した。
神さまは仕方なく、あがにゃー(東の家)に行って「どうか、一夜の宿をお貸しくだされ」と頼んだ。すると「あがいー(ああ)、うちにはこのとおり何もありません。それでも良かったら、どうぞ中へお入りください」と、優しい夫婦は快く招き入れた。
神さまは、正月だというのに ずーゆー(囲炉裏)にはお湯だけしか沸いていないこの貧しい夫婦を気の毒に思い「あなた方は一番何が欲しいのかな」と訊ねた。二人が「は?」と顔を見合わせていると、神さまは自分で土間の片隅にあった石臼を持出しぐるぐる回し始めた。まず、古い家を新しくし、次にお正月のご馳走を次々と出した。こうして、あがにゃー(東の家)でも賑やかにお正月を迎えることが出来た。
その様子に気づいた、いいにゃー(西の家)の主人は「あば!のーぬばーが(あれ、どういうことだ)」と訪ねてきた。正直な、あがにゃー(東の家)の夫婦は、神さまが来たことを話すと、欲張りな いいにゃーの主人は、早速「わしにもその石臼を貸してくれ」と奪うようにして持っていってしまった。そして、いくつもの願い事を言いながらガラガラ回したので、とうとう石臼は壊れてしまった。
このように神さまは正直な人を助け、欲の深い人には、それなりの仕打ちをなさるそうだ。
<石臼バージョン「海の水はなぜ塩辛い?」>
石臼には次の話もある。正直な男と欲張りな男がいて、同じように神さまが二人を試した。正直な男は貧しかったが神さまに優しくしたので、何でも出せる石臼をあげることにした。それを知った隣の欲張り男は、夜に石臼を盗み出し誰にも見つからない様にサバニで海に出た。そこで「塩よ、出ろ!もっと出ろ!」一番欲しい塩を出すために石臼をガラガラ回し続けた。サバニが塩でいっぱいになったので止めようと思ったが止め方が分からず、とうとう海に沈んでしまったとさ。それで、石臼は海の底で今でも回り続け、海の水は塩辛いというはなしだよ。 うすか(おしまい)
お知らせ
宮古島市文化協会では、第2回「宮古島文学賞」の一次選考通過作品の発表をしました。
詳細は、文化協会ホームページをご覧ください。
<今後の予定>
◆第2次選考会・・・1月10日(木)
◆最終選考会・・・・2月7日(木)
◆発表記者会見・・・2月8日(金)
(文化協会ホームページでも同時発表)
編集後記
松谷初美(下地・高千穂出身)
宮古は あめ ぬ ふり ぴしーぴし ぬ そうがつ(雨が降り寒い正月)ですが、そちらは いかがですかー?
昨年父が亡くなったので、我が家は正月飾りなどはせず、ひっそりとしたお正月でした。でも、母も元気で やーでぃまい(家族も)元気で新年を迎えることができ、ぷからすーと(うれしく)思っています。
2019年。平成から新しい年号に変わる年でもあり、いろいろな変化のある年になりそうですね。宮古は昨年、観光客が100万人を超えました。そして今年3月30日には下地島空港が供用開始となり、ジェットスタージャパンが成田間で定期便を就航させるそうです。観光客も増え、ホテルやマンションの建築ラッシュ、大型客船入港、レンタカーや観光バスの増加などなど、大きく変わる一年になりそうです。
新年号は、民謡や民話の中から正月にまつわる内容をお届けしました。のーしが やたーがらやー(いかがでしたかー)?
民謡の中の方言は、意味がはっきりと分からないものも多く、ハヤシは特にそうで、どういう意味だろうと考えることもしばしばです。「するいどかぎさ」を自分なりに考えてみました。
カニさんの「正月のあやぐ」と「カニスマ」の話し、いいですね〜。少し前まで宮古の人たちは即興で気持ちを歌いあげていたんですよね。カニさんはあまり知られていないことを独自で調べ、詳しく紹介しています。今後もどうぞ、お楽しみに〜。
せいこさんは、民話を数多く採集していて、本も出しています。正月のお話をとお願いしたところ、すぐにポンと。神さまは、日ごろの行いを見ているんですね。海が塩辛い理由も納得。これから海を見る時は、石臼が頭の中に出てきそう!?
先にも書きましたが、今、宮古は急速に変化をしてきています。そんな中で宮古らしさが薄れていくのは寂しいなと感じます。宮古らしさとは何でしょう。民謡や諺や地域の祭りや祀り、史跡、方言、自然等々から見えてくるものがあるかもしれません。そんなことも意識しながら、今年のくま・かまをやっていけたらと考えています。どうぞ、本年もよろしくお願いいたします。
貴方の感想もぜひお寄せくださいね。投稿もぜひお気軽に。まちうんどー
今回まい しまいがみ ゆみふぃーさまい たんでぃがーたんでぃ〜〜。
(今回も最後までお読みくださりありがとうございました)
この一年が健康で楽しく幸せな毎日でありますように心からお祈り申し上げます。
次号は、1月17日(木)発行予定です。
ぱだーぱだ うらあちよー あつかー、またいら〜。