くまから・かまから vol. 140

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 こんにちは〜。今年二回目のくま・かまどー。オーっといつの間にやらの140回です。パチパチパチ。
 さ、前回に続き、今回も新しいライターさんの登場ですよ。して、おなじみ神童のうむっしぱなす。カニさんの創作民話でお楽しみくださいね。

方言カンチガイ録

Motoca(平良出身)

 宮古ふつには、共通語話者との間にいろいろ誤解を生みそうな、紛らわしい言葉がいっぱいあります。
 
 有名な例でいくと
 「パリに行っている」パリ=畑、フランス旅行中と思われる
 「バカムヌだねー」バカムヌ=若者、馬鹿者と言われたと思われるなどでしょうか。
 
 さて、私は宮古出身ではあるのですが、典型的な市内っ子で、方言は得意ではありません。ですので、人様のことを笑えないぐらい、いろいろと方言を勘違いした経験があります。
 
 例えば・・・。
 
■「今日はマンジュウを炒めようと思うけど・・・」
 昔、いきなり祖母にこういわれた時は、あんこの入った饅頭がフライパンの上で踊っている姿を想像してしまいました。もちろん饅頭のことではありません。パパイヤのことを方言で「マンジュウ」というのです。沖縄では、実が青いうちにとって果肉部分を野菜として食べます。その晩、おいしそうなパパイヤ炒めを見てようやく安心したのでした。 

■「あんたなんかのウマはいるかぁ?」
 これは私ではなく、妹から聞いた話です。子供の頃、家のおもてに出て遊んでいたら、こう尋ねられました。質問の主は、いつも祖母とおしゃべりして遊びに来るキクおばぁ。う、馬?・・・な訳はもちろんなく、「祖母」というの意味の方言「ンマ」です。祖母が在宅かどうか尋ねたのです。おばぁ達の発音だと「馬」を共通語で言うときも「ンマ」に近い音だったので、そっちのほうを先に連想してしまったのでした。
 
■「チュウカ取ってきて」
 そう頼まれて、なんにも考えずに「は〜いっ!」と元気に返事をした私は、おもむろに台所の戸棚から中華鍋を取り出し食卓へ・・・。そしてその様子を見ていた両親と祖母に大爆笑されました。「あんた、チュウカもわからんなぁ〜!」と。うん、すさいん(知らない)はず。よく考えたら初めて聞く方言だ。方言だとも気付かなかったわけですが、・・・まあでも、いくら何でも食卓で中華鍋は使わないですね。ひととおり笑われた後、「チュウカ」=「急須」のことだと教えてもらいました。これは大人になってからの話です。とほほ。 
 
 子供の頃、上の世代が私たちに話す言葉はほとんど共通語でした。方言は大人の専門用語だ!と勝手に思っていた私は、「私も大人になったらあんな風に話すようになるはず!」と、楽観的に大人達の会話に飛び交う方言の音を聞いていました。これも勘違いかぁ・・・。
 
 やはり生活の場で使わないと、方言は分からないままです。私は今も、大体の意味を聞き取るのがやっとです。「大人になったら」には間に合いませんでしたが、ちょっとずつ語彙を増やしていって、「おばぁになる前には」すらすら話せるようになったらいいなぁ、と思って、方言を真面目に勉強しているところです。

イサオさんってば!

神童(平良市出身)

(怪我)
 
  飲み仲間にイサオさんという のーがらー(不思議)人物がいる。昭和24年生まれの料理の鉄人。
 
 イサオさんはよく怪我をする。その怪我も、絶対に笑えるオチを付けて。
 
 5年前は階段から落ちた。自宅の外階段ね。
 2世帯住居の2階に住んでいるイサオさんは、階段を下りていた。朝の6時30分。ぬっち(二日酔い)撃退のため近所のスーパーへゆし豆腐を買いに行くのだ。イサオさんの階段をおりるスピードはゆっくり。二日酔いなので、おぼつかない足取り。
 
 しかし、イサオさんの階段を降りる速度は途中から突然猛スピードになる。階段を踏み外した。
 
 イサオさんは階段を転げ落ち、右手に7針を縫う裂傷と やかたぶに(あばら骨)を2本も骨折してしまった。(本人が考えているより足が短く、階段の段差に追いつかなかったか、階段の途中で愛犬を踏んだかが原因だな。)
 
 愛犬の名前を「んびゃー」にしたほうがいいんじゃない?イサオさん!その名も「んびゃー犬!」いいと、思うんだけど?
 
 急ぎ駐車場に走ったイサオさんは血だらけの右手を高く掲げ、左手で器用にハンドルを捌き、宮古病院へ向かうのであった。
 
 翌日、短気大学出身の朝ちゃんと連れ立って、自宅療養中のイサオさんの見舞いに行った。自宅階段で骨折するまで転ぶのも珍しいので、終始、朝ちゃんは下を向いて笑いをこらえる。
 
 その翌年、イサオさんはまた骨を折った。
 泥酔したイサオさんは深夜1時にタクシーを拾った。イサオさんはタクシー乗務員に行き先を告げ、タクシーのドアにもたれて眠ってしまう。イサオさんの自宅前の道路は片側に傾いている。目的地に到着したタクシーは、眠っているイサオさんに到着を告げて自動ドアを開く。
 
 途端に斜めに傾いたタクシーからイサオさんは転げ落ち、道路沿いのフェンスにお尻を夜空に向けて止まった。実は、イサオさんが眠りから醒めたのはその時点で、顛末は全てイサオさんの憶測。
 
 翌日、見舞いにいくとイサオさんはコルセットに身を包み、引きつった笑顔で「去年もあばら骨を折ったから、慣れているさ」と意味不明の言葉を繰り返す。折れた骨は背骨の周囲のワニの背中の棘みたいな骨だとイサオさんは話す。イサオさんは病院でもらった薬はわけがわからず、医者の処置もコルセットだけなので薬は今朝、ちり箱へ捨てたってさ!
 
 さらにその翌年、イサオさんはまた怪我をした。幸いにして骨折ではない。台風14号の突風で割れた窓ガラスが妻の顔面を直撃。顔中、血だらけになった妻を徳洲会へ搬送する際、窓ガラスの破片を踏みつけたのだ。
 
 イサオさんは東京で働いている愛娘が父を心配してかけてきた電話に、こう話している。
 
 娘「お父さん、台風は大丈夫?」
 父「大丈夫だよ。あっ、今、窓の外を自転車が飛んでいった!」
 娘「えーーーーっ?」
 父「今度は、オートバイが飛んでいった!」
 娘「ほんとにぃーー?」
 父「あっ、今度は自動車が転がっている!」
 娘「・・・・・」
 父「しかも、全部人が乗っているんだよ!」
 娘「??????」
 
 イサオさんは破片が刺さって切れた傷口が3日目までは痛みがあり、それはそれは歩きにくい状態だったと話す。しかし、その後、痛みも引いて傷口もふさがったので9月23日の秋分の日にゴルフを楽しんできた。
 
 ゴルフは絶好調で普段より成績も良い。しかし、スイングの途中で足が痛むので翌日、病院へ行ってみた。
 
 レントゲンによる診察の結果、足の裏に長さ3cmのガラスの破片が発見された。取り出すために5cmも切り開き、更に縫合するという処置。
 
 イサオさんに2歳違いのミュージシャンの弟がいる。
 酔って帰宅すると玄関に至るアプローチに猫の大群。薄暗がりのなか、猫を踏まないように歩く。しかし、ここは兄弟。猫を除けたはずが上体が付いていかない。横倒しに転んで右の指を突き指。腫れ上がった右手でつま弾くギターの音色が痛々しい。
 
 
(怪我。追憶)
 
 幼い頃、弟と一緒に木登り。バンキギー(桑)の実を食べるため。と、足を滑らせたイサオさん。ずるずるとずり下がる。運悪く、鎌で切られた枝が地上付近で待ち受ける。
 
 ゴールデンボールが串刺し。怪我を母に知らせるため弟は とびゃがりて(大急ぎで)自宅へ。
 
 大人が来るまで串刺しになったゴールデンボールを見つめていたらしいイサオさん。話しながら俺に質問。
 
 「○○。ゴールデンボールの中はどうなってるか、知ってるか?」
 「っすぁん、たんでぃ(知るか)!」
 「あのさ、金色なんだ。正確には銀色だけどー。とにかく、ぴかいぴか いと いるわけさーね!」
 
 ボールが枝を除けたので、文字通り、皮一枚が枝に刺さり、中のゴールデンボールと対面したってよ!
 
 
(ゴルフ)
 
 イサオさんと、ゴルフに行く。よく行く。月に2回は行く。
 この間は、東急に行った。エメラルドコースとゴルフリンクスだ。なげー!ティーグランドでドライバーを握ってると、イサオさんがぼそりとつぶやいた。
 
 「ライターの火が鼻息で消えてしまう」
 
 何気なく聞き流すつもりだった。しかし、まて!煙草を吸う場合は、火を付けると同時に煙草を吸い込んでいるので鼻から息は出ないのだ。
カートの中でイサオさんに聞いてみた。
 
 すると
 「なかなか付かないんだ。ライターのガスもすぐ切れるし」との返事。
 「煙草を吸う場合は煙草自体を吸い込んでいるので鼻から息は出ないんだ」と説明する。聞いてるのか、聞いてないのか、よくわからないイサオさん。
 
 ゴルフも最終ホールの18番を残すのみとなり、ティーグランドで素振りをしていると、またまたイサオさんが呟いた。「おまえの言うとおりに、やってみたらすぐ火が付くさ!」
 
 馬鹿だ、この人は!昭和24年生まれ、齢50を超えるまで煙草を吸ってて、火の付け方を知らないなんて。笑いすぎてOBを3連発。どうしてくれんの!イサオさんっ!
 
 この間も、ゴルフに行った。千代田カントリークラブ。上野の千代田だ。東京出身の人が聞いたら「??????」となるネーミングだ!19番ホールの居酒屋でビールをあおっていると、こう宣った。
 
 「不思議だよ。はい!今買ってきたばかりの煙草なのに19本しか入ってない。JTが間違えたかね」
 
 見ると、真新しいキャビンマイルドボックスタイプを握りしめたイサオさんがしきりに首を傾げている。「ほんとだよ、おれ、3回も数えたのにな!」 しかし、右手にしっかり煙草を1本握っているのだった。持ってるのを数えろよ!
 
 
(携帯電話)
 
 またまたゴルフに行った。19番ホールは下里通り裏の「いろは亭」千代田カントリーから、イサオさん宅経由でいろは亭に向かう。いろは亭は、寿司と魚料理が旨い店。親父の名前は「ゆうじろう」年下だ。
 
 自宅で着替えたイサオさん。運転しながら、いろは亭への予約を入れる。道路交通法の改正で運転中の携帯電話は交通違反となった。助手席のナビゲーターに左ポケットから携帯を取り出して予約を入れるように指示する。
 
 ポケットから出てきたのは、携帯電話と同じサイズの日焼け止めクリーム。予約は入れられない!
 
 イサオさんの部下に宮国コーサマという女性がいる。30年前に二十歳くらいだった、豪快な笑い方をするおねえさん。
 
 朝出勤して、私用の電話をかけた。バックの中から出てきたのは、携帯電話でなく、テレビのリモコン。
 
 惜しい!電波を飛ばすことと、数字のボタンが付いてるから携帯に似てるさーね。日焼け止めクリームよりましだ!
 
 
(1アウト1、2塁)
 
 職場の野球チームで出場した当間杯決勝。2対1のリードの最終回。2アウト1、2塁の場面でセカンドを守るイサオさん。1塁ランナーが帰ればサヨナラ負け。バッターは今日絶好調の4番打者。
 
 勝負を避けたいピッチャー「プラザ武富」。
 このまま勝てば今日の殊勲選手かも知れないイサオさん。新聞のコメントを想像する。
 
 「イサオーーーーーーッ!」叫びながらセカンドへ矢のような牽制球。我に返ったイサオさん。ボールが左こめかみに突き刺さる。
 
 衝撃で記憶を無くしたイサオさんが気付いたのは、ホームベースを挟んでお互いに礼をする瞬間。
 
 2対1でイサオさんチーム念願の優勝。勝因はイサオさん。
 イサオさんの左こめかみを直撃したボールはダイレクトでファーストを守るてっちゃんのグラブへ。離塁していた1塁ランナーへタッチアウト。その後、サードへ送球。2塁ランナー、サードで憤死!
 
 ナイスプレイ!イサオさん。
 別の意味のコメントを考えんといけないイサオさん!
 
 別の試合。同じシチュエーションの最終回。プラザ武富に代わってピッチャーイサオさん。
 
 敵チームの4番打者と対峙。キャッチャーとなったプラザ武富。マウンドのイサオさんと協議。
 
 「敬遠やー!」打ち合わせ終了。
 マウンドのイサオさん。ゆったりとしたモーションで投球。走者一掃のさよなら大暴投!
 
 もう〜、イサオさんってば!

創作民話 『ヒゲの生えたアリとアララガマ』

カニ(平良出身)

(まえがき)
 カニは今から約25年前の1982年、つまり昭和57年に宮古島で発刊された同人誌「八重干瀬」創刊号に2編投稿し、掲載して戴いた。その創刊号が今年の正月前に、部屋の片づけをしていたら本棚の片隅から出てきた。
 
 懐かしさのあまり、この雑誌に目を通した。何故、この雑誌に投稿できたかというと、カニの姉の夫がこの雑誌の編集を担当していて、カニにどうかと呼びかけたからである。ただそれだけである。
 
 大学校を卒業してきたばかりで、のんびり故郷で過ごすことの出来るのは僅か5日ばかりの時であった。5日後からは超忙しい生活が待っていた。無性にカニのこころにある「もやもや」をぶつけたかった時期だった。
 
 創刊号には、平良好児、下地博盛、川満信一、砂川玄徳、もりたけし、宮川光子、平良淳子、東内原旭、慶田城健仁、宮城功、砂川章、佐渡山安公、下地利幸氏らが顔を出している。表紙や文中のイラストやカットは、与那覇淳氏が担当している。
 
 確か、イーザトの入り口にあった喫茶店「珈琲園」で1回か2回、打ちあわせの会合に参加した覚えがある。何故、若いカニがその中にいたのか、今思えば場違いのところによくも図々しくいたものだ、と思う。
 
 投稿した2編のうち、カニが書いた創作民話「ヒゲの生えたアリとアララガマ」を25年経過した今、読み返した。今の自分と比べてみた。
 
 「あば ばやー のーまい かーりゃぁ うらんさいがー」
 
 昔とあまり変わっていないのに気づかされる。昔のままのカニがいる。
 
 「あがいたんでぃ んにゃ ぷからすーぷからすむぬー」
 
 嬉しくなった。カニのこころの原点は変わっていなかった。変わったのは経験や体験、そうして知識である。その知識はカニの昔からの夢みたいなものの実現に向けて学習してきたものなのかもしれない。
 
 今回はカニの処女作である、創作民話『ヒゲの生えたアリとアララガマ』を紹介させて戴きます。少し修正を加えたところもありますが、基本的にはまったく同じ内容です。25年前の自分と今の自分とを比べ見ることができる作品をカニは残してありました。今頃になって1982年のあの時に、この作品を書いて置いて良かったと思っています。では、皆さんに紹介させて戴きます。
 
 「んーなし ゆみふぃさまちよ〜 たんでぃがーたんでぃどー」
 (皆さん 読んでくださいね〜 よろしくお願します)


創作民話『ヒゲの生えたアリとアララガマ』

 今から何百年も前のことである。
 沖縄の宮古島にアララガマという少年がいた。
 アララガマは、毎日、寝ることが好きで、「三度の飯より寝た方がいい」と言って暇さえあれば寝てばかりいた。偶に、起きているかと思うと酒ばかり飲んで、「一体何のために暮らしているのか、このぐうたらろくでなし!」と、周囲の人達はあきれかえっていた。
 
 そんなアララガマでも、十歳の時、ひょんなきっかけで、「アリ」と仲良くなった。
 
 ガジュマルの木の下で寝ていたときのことである。一匹のアリが、アララガマの足先からのぼってきた。うたた寝をしていたアララガマは、美しい女の人が足先を優しくなでている夢をみて、にやにやしたり、白い歯をむきだしたりして笑っていた。しかし、アリが強くかむのでびっくりして、アララガマは目が醒めた。
 
 すると、妙なアリが、アララガマの膝元で頭をコックリコックリ動かしていた。いつも、ボーとしているようで、それでいて結構、観察することが人並みはずれているアララガマは、アリのこの動作を見落とすはずがなかった。
 
 このアリには、アゴのあたりに立派な長いヒゲが生えていて、今まで見てきたアリとは全然違っていることにまず気づいた。もちろん年老いたアリには短いヒゲが生えており、目の周囲には必ず、3本以上のしわがあるので、それとも容易に区別がついた。とにかく、その妙な風貌のアリは、アララガマのこころをゆさぶるくらい魅力的であった。「このアリはきっと普通のアリとは違う」・・・そう思ったアララガマは、大切に箱の中にしまい、自分で飼うことに決めた。
 
 その翌日、宮古島は台風であった。これまでよりも強い台風で、家々は吹き飛ばされ、森の木々は折れて枯れた。畑の作物は海水を含む雨風で全滅した。そうして多くの人々が死んだ。宮古島の人々は皆がっかりした。悲しんだ。
 
 アララガマはその日から毎日、アリを観察し始め、ガジュマルの幹にそれを記した。このアリは、アララガマそっくりで、暇があると寝てばかりいて、殆どエサを捜しにも行かず、大好物と云えば、酒の混ざった芋であった。
 
 あまりにも自分にそっくりで、生活のリズムまでが同じなので、アララガマは驚いた。少々、違うことがあると云えば、夜中に起きて星空を眺めていることであった。アリが星空を眺めると云うことは、不思議ではあるが、アララガマにはそれがわかった。長年、アリを観察していると、どこを見ているか、自らわかってくるのである。
 
 このヒゲの生えた妙なアリを観察し始めてから一ヶ月が過ぎた。アララガマは、このアリがある動作をするのに気がついた。一般の人達なら、おそらく何も気がつかなかったに違いない。
 
 顔を横にふったり、頭をぐるぐる回したり、自分の手で顔を撫でたり、腹をひっこませたり、一番面白いのは、アララガマにお尻を向けてブルブル震わせたかと思うと、その力でもって真上にピョンと飛び上がる動作であった。毎日毎日、その動作を観察しながらアララガマは、ていねいに、ガジュマルの幹にその様子を記していた。そうして10年の月日が流れた。
 
 ある日、自分の記した記号をくり返し読んでいくうちに、アララガマはそのヒゲの生えたアリの動作の意味が重要であることに気づいた。例えば、顔を横にふった翌日には必ず大雨が降った。頭をぐるぐる回した翌日には必ず海の波が時化た。両手で顔を撫でた翌日には雨風が吹き荒れた。腹をひっこませる動作が見られた翌日は北風は吹いた。お尻をブルブル震わせ、その力で持って上にピョンと飛び上がる仕草の翌日海に漁に行くと、必ず大漁であった。
 
 十年の観察を続けてようやく、このことに気がついたアララガマは、体全体が身震いした。感動のあまり涙が目から自然にあふれおちた。生まれて初めて流す涙であった。
 
 これまで暇があったら寝てばかりいたアララガマは、このことを宮古島のみんなに教えようと思い、一軒一軒回り、「明日は大雨だよ」「明日漁に出れば大漁だよ」「明日は波が時化るよ」「明日は北風だよ」などと言って歩いた。最初は信じなかった宮古島の人々も、あまりにアララガマの言うことがあたるので、だんだんと信じるようになっていった。
 
 ある日のことであった。いつものようにヒゲの生えたアリを見ていると、頭をコックリコックリ動かしていた。ここ数年、このような動作をみていなかったので、アララガマは、はて、何かな〜と思い、いろいろ考えあぐんだ。そうして十年前、ガジュマルの木の下で初めてアリと出会った時のことを思い出した。
 
 そういえばあの時も頭をコックリコックリ動かしていたな
 
 そうだ、翌日には大きな台風が襲ったんだ
 
 アララガマは十年前の記憶を取り戻し、急いで宮古島の人達にそのことを伝え、避難をするようにと宮古中を駆け回った。住民はアララガマの言うとおりに従い避難し対策をたてた。そしてアララガマの言うとおり、これまでよりも大きな台風が宮古島を襲った。避難しなければ多くの人達が死に大きな被害が出たのだろう、と宮古島の人達はアララガマに感謝した。
 
 それから数ヶ月が過ぎた。ヒゲの生えたアリと一緒に寝ていたら、アララガマの足をそのアリがしきりに噛むので、アララガマは起きてアリを見た。ヒゲの生えたアリは、何か言いたげそうで、しきりに口を動かしている。アララガマが耳を近づけるとアリの声がした。
 
 「アララガマや、わしは今日でこの世とお別れだ。これまでわしは、このことを伝えようと多くの人間に出会ったが、殆どの人間は、日々の生活に追われて考えることをやめてしまってね・・・わしは寂しかったよ。しかし、アララガマと出会ってホッとしているよ、わしは安心して天国へ行けるよ。アララガマ、いつまでも今の気持ちを忘れるなよ!アララガマ」
 
 その言葉を残して、ヒゲの生えたアリは、この世に別れをつげた。アララガマは一日中、アリの傍らで涙を流していた。
 
 ヒゲの生えたアリが死んでから、アララガマは困ってしまった。いつ大雨が降るのか、いつ波が時化るのか、分からなくなったからである。宮古島の人達はアララガマが何も言わなくなったので、以前に戻って、「この、ぐうたら、ろくでなし!」と言って相手にしなくなっていった。しかし、アララガマはどうすればヒゲの生えたアリのように、大雨が降るとか、波が時化るとかが、分かるのかと考えあぐんでいた。
 
 そういえば、あいつ、毎晩星空を眺めていたな〜
 
 そんなことを思いだし、アララガマは毎日夜になると屋根の上に登り星空を観察した。そうして気づいたことや変わったことがあると、毎日、石垣のへいに書き記し続けた。
 
 三十年近く年月が流れた。アララガマもすでに六十歳になっていた。三十年近く、ガジュマルの木々の幹や、石垣のへいに観察し書き記したことを何度もくり返し読み返した。アララガマはついにヒゲの生えたアリが気づいていたことに気づいた。そうしてそれを一冊の本にまとめているうちに、さらに二十年の歳月が流れた。
 
 本の完成した翌日にアララガマは息をひきとった。
 
 その本は、分かりやすく書かれていたので、宮古島の人達はその本を読み、「明日は大雨が降る」「明日は大漁だ」「明日は大時化だ」「明日は大きな台風が来る」と云って、自分たちの生活に役立てたそうである。
 
 寝ることが好きで、「ぐうたら、ろくでなし!」と呼ばれていたアララガマが、このように頑張っていろいろなことを発見したので、宮古島では、何かにつけ、頑張る時に、アララガマのことを思いだし、「アララガマ」「アララガマ」と叫ぶそうである。

(終わり)


 ばが きゅうぬ ぱなっすっさぁー うすかがまさい
 (私の今日の話はこれだけですよ)

編集後記

松谷初美(下地町出身)

 創作民話『ヒゲの生えたアリとアララガマ』とっても良い話でしたねー。読後感の良い、上質の読み物を読むと、心が澄むような感じがします。すぐそばで話しをしてくれているような感じで物語の中にぐいぐいと引き込まれていきました。絵本やアニメにもなりそうな感じですね。みなさんは、のーしがやたーがらやー(いかがでしたかー)?
 
 くまかまでは創作民話は初めての登場です。カニさんがこの物語を書いたのは、んなまから(今から)25年前というのですから驚きですね。カニさんの宮古を見つめる目はその頃からすでにあったんですね。
 
 (まえがき)は、時代が表れていて懐かしいですね〜。「珈琲園」を覚えている方も多いのでは?「八重干瀬」の創刊号では今も活躍されている方たちの名前も多く、納得です。
 カニさんの原稿これからもますます目が離せませんね。今後もお楽しみに。
 
 そして、今回のトップバッターは、今年から、くま・かまのライターになってくださったMotocaさんでした。
 
 [Motoca]
 1979年 平良下里生まれ 現在、東京在住
 
 くまかまメンバーで一番の若手ですよ〜。よろしくお願いしますね。
 Motocaさんは、宮古方言に関するブログ「あっがいたんでぃ!」を開設していて、これがまた だいずうむっしで、深い内容だらよー。
 自分の経験をもとにしながら、分かりやすく説明しています。すごく勉強しているんだなー。見習わなくては!みなさんもぜひごらんくださいね。
 今後の活躍にご期待ください。

 神童の愛が詰まった素敵な仲間のぱなす。またまた登場ですねー。イサオさんよー、あがいー、まーんてぃ がみゃー。
 でも、読んでいると元気がでますです(笑)それにしても、たうきゃーしー(ひとりで)こんなにエピソードのある人もいないんじゃないか?神童によるとエピソードはまだまだあるらしいですよ。どんな人かよ、まず。
 神童は、原稿を書くのがだいず早い。次から次へと送られてくる。だから、毎回、「今回はどれにするー?」という原稿選びから始まる。で、今回は、たまったイサオさん関連の原稿を集めてお送りしました。「ゴールデンボール」が「ぴかいぴかい」と・・・あぁ、頭の中が妄想で・・・(笑)
 
 くま・かま本出版祝賀会(3月4日)へ向けて宮古にいるNさんがいろいろと会場探しをしてくれています。ありがたい。
 昔の披露宴会場のようなイメージ(折り詰めに紅白の餅(饅頭でも可)、舞台では・・・)でやりたいなーと思っているのですが、さてさて、どうなるでしょう。宮古行きのチケットも無事にゲットできて、まずは良かった、良かった。祝賀会に参加できる方は、メールくださいねー。やまかさの方の参加をお待ちしていま〜す。
 
 それから、下地勇さんがNHK教育テレビの人気番組「トップランナー」に出演するそうですよー!(だいばん(大きな)声)だいず楽しみ!オーディエンスには知っている顔も見えるかもよ〜。

 放送
 「トップランナー」
 2月11日(日) NHK教育テレビ(19:00〜19:44)(本放送)
 2月15日(木)  〃 総合テレビ(24:00〜24:44)(再放送)
 (※一部地域では、再放送の時間が異なる場合があるそうです)

 お見逃しなく〜。
 
 さて、今号いかがでしたかー?感想をぜひお寄せくださいね!投稿作品もいつでも受付中〜。
 
 
 次回は、2月1日(木)発行予定です。
 次号にも新しいライターが登場しますよー。どうぞお楽しみに!
 
 あつかー、またいら! きゅうまい 良い1日でありますように。